地域活性化のための取り組み              大分県       レポートTOP

 

1.事業の概要

 

 正式名「大分県合併地域活力創造特別対策事業」。

県地方行政局が推進する。

同局は平成12年、地方課と過疎地方行政局が合併して設置された。職員32名。

大分県では従来の58市町村が合併で18市町村に再編成された。減少率69%は全国4位。

このような状況下、発展に取り残されるおそれがある旧町村地域に対し、県が特段の援助をするのがこの事業の内容。1721年度、5年間の事業。

全国でも大分県のみの取り組みである。

県知事の公約を体系化した「安心・活力・発展プラン2005」の具現化。

県では平成17年末、合併影響調査報告書をまとめ、合併に伴う旧町村部の抱える課題を抽出した。その研究成果として、例えば、災害時避難勧告を発令するのに従来より2〜30分の時間がかかる、町村の消防団は役場職員だったが、彼らが市役所職員となると昼間の火災に対応できない、などなど、各方面の具体的課題が明らかとなった。これに基づき、県として「自立力」醸成へのステップとして、この事業展開を決定した。

一般に、合併後は新市の努力で新市を形成しなければならないが、「大分式」では、新市の体制が整うまでの過渡期に、県がきめ細かく配慮していくもの。

県庁内でも各部局バラバラであった地域活性化のための補助制度を統合・拡充。地域ニーズに迅速かつ柔軟にワンストップで対応できる総合的な補助制度。

 

2.事業の体系

 

地域活動への支援、農林水産業等産業の振興、道路・下水道整備、交通対策・その他、の4つの部門で構成。総枠で「地域活性化総合補助金」102千万円を予算化。これを、

・旧町村部活力創造枠

・旧町村部緊急支援枠 (この二つは旧町村部限定)

・活性化チャレンジ枠

・地域活動支援枠   (この二つは県内全域を対象)

の4フレームで実施する。

 

3.事業の詳細説明(一部説明いただいたもののみ)

 

 @商工会青年部・女性部地域活力増進事業

  →地域の人たちでお年寄りに声かけ、お使いなどをするのを支援する事業

A地域商業競争力強化推進事業

 →旧町村の商店街への助成

B地域防災力強化育成事業、消防団活動活性化推進事業

 →消防団OBの嘱託再任用、女性の登用を推進する事業

C地域交通計画策定支援事業

 →バス計画に基づく運行補助、バス停補助で生活弱者の足の確保

補足

・活性化チャレンジ枠では、例えば酒屋さんがお菓子屋もやろうという場合など、第二

 創業支援からIT、バイオテクノロジー等の先端技術革新、地域通貨の試みなど広い

 範囲で対象事業を柔軟に認定。

・地域活動支援枠では、地域資源の活用や地域の課題解決につながるコミュニティビジ

 ネスにも補助。チャレンジ枠からビジネス化へ、ステップアップを助成する。

・旧町村部活力創造枠は1事業に対する補助限度額は5千万円。計画→立ち上げ→自立

 まで3年間継続して補助する。専門家の支援を受けながら、職員が地域と一緒に作成

 する。県知事が事業認定するために必要な書類・資料の作成も、県振興局職員が地域

 に入ってアドバイスをする。(このことは後に「感想」のところで詳述)

・旧町村部緊急支援枠では、消えていくまつりやイベントも支援する。

・事業展開に際しては、新たな雇用を生むように、また地元の産品を使うようにお願い

 している。

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4.事業推進全体に関するポイント説明

 

・地域では、「市役所職員より県職員の方がよく来てくれる」。

・市レベルでも同趣旨の取り組みを始めたところがある。

・地域でのキーパーソン探しが大事であるが、これは当該市の企画部長を経由する。市

 職員もいっしょになって仕事をする。

・地域では、「普段着の県職員がやって来た」と歓迎されている。

・かつての「一村一品運動」から「ブランド化」へ。

 かぼす、トマト、いちごなどを強化品目に指定。「少量多品目」を「ブランド推進課長」

 がバックアップ。「選択と集中」で、置いていかれるものも育成していく。強化品目は

 ブランド化により、大きなロットで勝負ができる。

・2カ月に1度、6つの振興局を集めて体験情報共有の場を持つ。そこで「ストライク

 ゾーンを定める」。

・現地に赴く普及員を知事査定の段階で増員した。普及員となった職員は育つ。

 

5.補助事業の実例(説明いただいたもののみ)

 

 @湯平(ゆのひら)温泉場活力創造事業

  →共同温泉及び飲泉広場の整備と、旅館・商店の外観改修

  →町営温泉をリニューアル。デザインを統一。HPで「飲む温泉」をアピール。

  →棚田の新米を発信。田のオーナーになってもらい、田植え、刈り取りを体験しても

   らう。

  →ハコモノ助成にとどまらず、ソフト事業の展開をバックアップすることで住民が元

   気なまちづくり。

A中津江村「未来へつなぐ新しい村づくり事業」

 →02年のワールドカップサッカー開催時にカメルーンチームを受け入れた「中津江

  村」で全国に知られるように。到着が5時間も遅れた選手たちを深夜、全村民で「ボ

  ンソワール」と歓迎した。

 →財団法人中津江村地球財団が売り場増設、観光宣伝用パンフレット、村の広報活動

  を引き受け、村民の心をひとつにする活動をする。

B湯布院町「地域支え合い事業」

 →同町支え合いセンター川西農産加工直売所が昼ごはんの宅配事業、家事援助事業を

  展開する。

C安心院町「名人の里づくり事業」

 →郷土料理店、農産加工所の施設整備。

 →直販ショップとレストランを経営していたが、振るわなかったところ、コンサルタ

  ントを受け、地元の味を出す品揃え、とアドバイスを受けた。「感想」で詳述。

D真玉町「庁舎を利用した小劇場整備事業」

 →議場改修、音響・空調設備改修など

 →旧議場を劇場にすることで、伝統の「真玉歌舞伎」が息を吹き返した。


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6.感想


 まず特筆すべきは、県職員が旧町村に乗り込んで、いっしょに事業を立案、展開するということです。

通常、行政に補助金を申請しようとすれば膨大な書類作成が必要となりますが、この事業では県知事に提出する書類も県職員が地元住民の輪の中に入り、共に作成します。「この書類を作ってきなさい」「直してきなさい」ではないのです。こうした県職員は他県からも講演の招聘が来るとのことです。

さらにどこが悪いのか、どう工夫すればいいのか、地元住民だけでは途方にくれてあきらめるというケースもありますし、せっかく補助金を得ても展開のまずさのために失敗することもあります。県では、専門家からのアドバイスを受けることまであっせんします。

前記、安心院町の事例では、「この町での売れ筋は何なのか」と、県職員も一緒になり、道の駅に出向いて売れ筋の調査までしたとのことでした。

不眠不休。熱心な職員は泊り込み、住民の先頭を切って事業に取り組んでいるとのこと。地元の市職員も面目がないかも知れません。

今回の視察は中讃広域事務組合議会からのもので、通常、市議会からの視察は市に、広域議会からのものは広域行政事務組合にお邪魔をして視察させていただくものですが、市議会の視察でないとはいえ、県に赴くのはなかなか異例のことではないかと思います。

しかし大いに参考になりました。意外ですらありました。

香川県に対して失礼かも知れませんが、こういう取り組みをする県もあるものか、と、驚嘆した次第です。

感想の1点目として、個々の新市が取り組む施策の枠組みを超えて、県がこのような施策に出ることを、市や広域行政が県に対して要望していくことだと思いました。しかし正直なところ、こういう施策を発想することすら、私にはありませんでした。

確かに、平成の大合併の仕組みを振り返ると、県がかなり強力に推進役を果たしたことが思い出されます。香川県でも全国の中で市町減少率では10位と「健闘」したのですが、その後の施策として、単に交付金で手当てしてそれだけ、ということなのかどうか、まずは当局に尋ねてみたいと考えています。

もとより、市町レベルの予算規模ではこのような充実した補助金体制が整えられるはずもありません。ひとり大分県だけが潤沢な予算に恵まれているはずはなく、要はおカネの使い方であると思います。高松市の臨海地区のあの立派なハコモノ整備を遠くから眺めつつ、大分方式を当てはめて言うならばわが飯山、綾歌町に県の人材と財源が投入され、旧市町職員が目を丸くするようなあざやかなシカケを展開されることを、望みたいと思います。

感想の2点目として、これは県、市ともに言えることですが、対住民の補助金体系のワンストップ化は、何をおいても喫緊の要請であると、私は常々訴えております。

大分県の場合、その端緒には県知事の公約の存在があったわけですが、まさしく、行政の戦略力が要請されるところであり、リーダーの経営手腕、改革の断行力を望みたいところです。

3点目として、今回大分県で学んだ最大のこと、それは公務員が住民の中で、飾り言葉ではない、実際に同化して共に現場を歩き、討議し、書類作成までをひとつのテーブルで共に作業するということこそ、今日言うところの真の「パートナーシップ」であるということを強調したいと思います。

各所、各機会を捉えて私が繰り返し申していることですが、役所は、これまで戦後60年の旧来の役所の延長上にあると考える人にもはやマネジメントを任せるべきではありません。とは言え実際には、若手後輩は先輩の仕事ぶり、既成の仕事の仕組みを体で覚えて年を取るわけですから、水の流れのように、どこかで区切るということがまことに難しいのも事実です。

昨今普及しているAEDさながらに、マヒした心臓に電気ショックを与えることが今こそ役所に必要と思い、私も及ばずながら役所にとって起死回生の電流たらんと欲する者ですが、いかんせん力量不足か、その目的を達せられません。客観的には、それはトップの号令にかかっている、というのが仕組み上、本当のところだと思います。

それでも私も議員として、AEDたることをやめるつもりはありません。

強すぎるくらいの電流の持ち主となり、これら視察で得た知見を丸亀市政や広域行政の現場に反映させていくつもりです。


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最後に、今回、九州大分県の、それぞれ異なる3つの行政現場を勉強させていただきました。その全般に亘る感想を述べます。

「火の国」と言われるのだから燃えているのか、と申せば茶番になるでしょう。

それにしてもそれぞれに、市や町という行政圏域を超えた発想の何と豊かで積極的であったことでしょう。

今、私はちょうど知人からいただいた、綾歌町の歴史を綴った本を読んでいますが、その本は町の40周年を記念して発刊されたものです。

恥ずかしながら、私はこの本に接して初めて、合併の相手先であるこの町が、40年前には行政体としては存在していなかったということを知りました。

市とか町とか、あるいは県とか、そうした行政区割りが、あたかも太古の昔から続いているかのように錯覚しがちですが、実際にはまったくそうではありません。

しかしそこには、長い生活の歴史が作り上げた必然性もあったのであり、それを人為がどこまで手を加えることが妥当なのか、それは非常に悩ましい問題でもあります。

こう考えると、大分県が取り組んでいるこの補助事業は、小さな市町では俯瞰することのできない視野を持つ鳥の眼で、広く県下全域を見渡し、合理的で体系的な補助制度を完備させた上でピンポイントで取り残されそうな地域に手を差し伸べるというすばらしい取り組みなのではないかと思い至ります。むしろこういう施策に出てこそ都道府県という構造の存在価値がある、とさえ申したいほどです。

本題に戻りますが、私は今回の視察で、市町圏域を縦横に超えた発想をしていくことの重要性、必要性を体感したように思います。

そしてその上で、飯山、綾歌、旧丸亀のそれぞれの特質を、ブルドーザーで押し倒すような無粋なまねをしない、デリケートな行政の手の差し伸べ方が要求されるのだということを考えました。

話のついでに書き添えさせていただきたいのですが、これを書いているのは視察からすでに3カ月近くを過ぎた時点です。

同僚議員と歩調を揃えて報告書を提出する必要があり、その意味で一日も早く報告書を完成させるのが信義というものですが、私はこれまでの経験則から、約3カ月、ちょうど「視察の記憶もうすらいできはじめた頃」、先方からいただいた資料と、そこに走り書いた自分のメモ書きとを頼りに再び視察の詳細をよみがえらせる作業に取り組むことで、実は単なる見聞録ではない、思索の成果も報告に盛り込むことができる、ということを身につけてしまったのです。

報告書提出が遅れたことの言い訳をしているようではありますが、私は視察の成果は視察者の思索、熟考が加えられてこその成果品であり、もとよりこの先、これに伴うアクション、アウトカムが伴ってこその市民のための視察業務であると思います。

3つの行政組織をお邪魔し、「さすが九州や」の感嘆で終わらせることなく、私は視察項目もさることながら自分の思索を丸亀市政に成果品として持ち帰りたい。

それにつけても、議員に視察の旅費を付与してくださることは本当にありがたいと思います。インターネット検索や出版物を当たることだけでは得られないものを、私はこれからも「産み」続けたいと思っております。

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